どんな失敗や困難があろうが笑う姉

【投稿者名】名無しさん 【性別】男性 :2015/05/06 02:23:16
姉は常に笑っていた。
どんな失敗があろうが、困難があろうが、常に笑みを浮かべ、にへらと笑っていた。
そんな姉が受験を控え、さすがの姉でもストレスが溜まるだろうと中二だった俺は世話になっている姉を最大限サポートした。
うちの家庭は母子家庭なのだが、母はパートが詰め込んでるらしく家に帰ってくるのは深夜か朝だ。
だからこそ、姉は常に俺を見ててくれた。そういうこともあり俺は姉を随分と慕っていた。
案の定、姉はだんだんと部屋から出てこなくなりました。
俺は受験だけでなく何かが引っかかってるんだなと子供の思考で、コーヒーを淹れてあげ、姉の部屋へと運ぶと、
「なんでよっ!」
という叫びがドア越しに聞こえてきた。
俺は今まで聞いたこともないようなその声に肩を震わせ、こけてしまった。
コーヒーは少し溢れただけで済んだものの、姉が瞬間的にドアを開け、俺を見てすぐに、
「コーヒー?ありがとうね」
とだけ言い、俺の手からコーヒーを優しくとりドアを閉めた。
あの引きつったような笑みを今でも覚えている。
俺はベットに潜り込み深夜までずっと考えてた。
受験ってそんなストレスが溜まるのだろうか?なら仕方がない、俺は俺がやれることを全てやろう。
きっと姉は自分の世話と受験がごっちゃになっているんだ。と考え、それから洗濯やら掃除やら料理やら、できそうな家事は姉の反対も押し切り、全てやった。
そして姉は無事合格、それを知らされると俺はまるで自分のことのように喜び、そして何が切れたかのように倒れこんだ。
気が付いた時には病院にいた、疲労が原因だそうだ。
危うく死にかけたと医師に注意された。
姉も目が腫れていたので、よほど泣いていたのだろう。
姉は
「もういいから」
とだけ言った。
退院し、家に帰ると、そこには笑みを浮かべた姉がいた。
俺は安心し、中学三年としての日常を過ごした。
そして、受験も合格した。
自分の願望で、遠くの大学付属に入り、俺は一人暮らしとなった。
そして月日は流れ、社会人となり母から姉が結婚すると言ってきた。
びっくりしたが急いで実家に戻り、俺は不思議な感覚に襲われた。
その光景は姉の写真が額縁みたいなのに入れられ、そのとなりにスーツを纏った男性がいて、その周りに多くの親戚がいる光景。
「あれ?????(姉の名前)は?」
と聞くと、まるで今まで我慢してたものが溢れるかのように皆が泣き出した。
訳が分からず母に問うと、
「????(姉の名前)は小さい頃から体がすごく弱くてね、中学一年の時に医者から20歳まで生きれるかどうかって言われたの」
姉は現在25歳だ。これから頑張って生きていくのだ。
さすがにその冗談は酷いと俺が怒ると、
「冗談だったらいいのにね…」
と半分自虐気味に母が答えた。
「どうやら自分の余命を知ってたみたいよ」
母が続けて言う。
俺は信じられなかった。
膝から崩れ落ち、自然に出てくる涙も気にならなかった。
姉が死んだ。
その事実に、俺はひどく混乱した。
笑みを常に浮かべていたのは、自分の余命を知っていて周りに心配をかけたくなかったからかもしれない。
あの時の叫びは、自分の無力さに苛立ちを覚えたのか、今となっては何も分からない。
ただ、今でも時々姉は夢に出てくる。
その姉は常に笑っている。
俺はその都度「いい人が見つかって良かったね」と笑みで返してやっている。
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