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彼女のお守り

この記事の所要時間: 535

初めて彼女にあったのは、内定式のとき。同期だった。
聡明を絵に書いたような人。
学生時代に書いた論文かなんかが賞を取ったこともあるらしく、期待の新人ということだった。
ただ、ちょっときつめ&変わった人で、
やることすべてパーフェクトだし、自分のことはなんにも話さないので、宇宙人ではないかとの噂もあった。


まあ美人と言えば美人なんだけど、
洋服とかおしゃれに気を使わないようだったし、
クソまじめだし、お高くとまってるというより男嫌いみたいだった。
近寄る男はいなかった。
おいらも、なんかちょっと嫌いだった。

彼女とは、偶然同じ部署に配属になった。
それまで出会ったどんな女の人とも違うので、からかって反応を楽しむようになった。
はじめは、すごく嫌がっていた彼女だったが、
半年も経つと馴れてきたのか、そのころおいらが結婚したんで安心したのか、
少しづつ相手をしてくれるようになった。

その後、ちょっとだけ仲良しになって、
愚痴を言い合ったりするようにはなったが、
相変わらず自分のことは、何にも話さない。
休日何をしているかとか、家族のことはもちろん、本人のことも、
例えば誕生日なんかも、何年間か知らなかった。

ある日、ある試験の申し込み書類の書き方を聞いたら、自分の書類をもって来て見せてくれた。
そこに、生年月日が書いてあった。
なんと、その日が誕生日だった。
今日はデートかなぁ?などといいつつ、
とりあえず、昼休みに食べたチョコエッグに入ってたカメを誕生日プレゼントと言って渡した。

爬虫類大好きと言って子供みたいに喜んでいたのが印象的だった。
変わってるなぁと思った。

確かに変わった人で、いまどき携帯は大嫌いとかで、持ってなかった。
写真を撮られれるのも大嫌いだった。
カメラ付き携帯で飲み会のとき撮影したら、
すごく怒って、しばらく口をきいてくれなかったこともあった。
無理やり一緒にプリクラ撮ったときは、悪用されるといやだからと言って、
シートごと全部持っていってしまった。

彼女は、がんばりやだった。
もともと才能もあったし、がんばるもんだから、どんどん出世していった。
それにほとんど遊ぶこともなく、仕事がおわるとまっすぐ家に帰っていた。
そんなに、お金ためてどうすんのー?
お父さんの借金でも返ししてんの?
などとからかった。

そのころには、彼女のことがとても好きになってしまっていた。
でも、おいらはもう子持ちなので、表に出さないようにぐっとこらえていた。
ただ、彼女の周りをうろちょろして、
愚痴の聞き役や、遅くなったときのタクシー代わりをしていた。

でも、プライベートな関係は一切無かったし、変な噂にならないように気を配った。
同僚は、おいらは彼女の「ぽち」に見えると言っていた。
自分も彼女の「ぽち」という立場が気に入っていた。

そんな関係がしばらく続いた。彼女は、相変わらず独身だった。
彼氏や恋人がいるかどうかは全然分からなかった。

ただ、彼女は、お守りみたいな、小さな袋をいつもバックにつけていた。
何か聞いても、秘密のお守りとしか教えてくれなかった。
彼女が仕事のトラブルで落ち込んでいたとき、
彼女のデスクでそのお守りをギュッとにぎっていたのを見たことがあった。
だから、勝手に遠くにいる彼氏からもらったのかな?などと思っていた。

ある日、海外出張からの帰り、成田で携帯の電源を入れたとたんに同僚から電話があった。
彼女が亡くなったと言われたとき、全身の力が抜けた。
みみの奥がキーンと鳴ったのを覚えている。

交通事故だった。
事故直後は、意識もあり、たいしたことはないと思われたらしいが、
内臓からの出血があり、急変したとのことだった。

現実のこととは思えずに、なぜかあまり、涙もでてこなかった。
職場の何人かで、葬儀の手伝いをした。
そのとき初めて知っのだが、母子家庭だった。
お姉さんもいるが、施設に入っているとのことだった。
彼女が大黒柱として家族を支えていたのだ。
彼女を軽率にからかったりしたこと恥じた。

とても申し訳なくて気が狂いそうだった。

葬儀の後、帰ろうとしていると、彼女のお母さんに呼び止められた。
渡したいものがあるから彼女の実家にあとで一緒に来てほしいと言われた。
貸していた本のことかな?と思いつつ彼女の母親と実家に向かった。
母親は、道すがら、
彼女は大好きだった父親が出て行ってから男の人が嫌いになったこと、
誰にも頼らないで自分の力で生きていこうと誓ったこと、
土日はあまり健康でない母親と、施設の姉の世話をしていたことを話してくれた。
自分の子供とは思えないほどがんばりやだったと。

家に着くと、彼女の部屋に案内された。
きれいに片付いていた、というより女性の部屋とは思えないくらい何も無かった。
ただ、専門書とノートがたくさんあった。
母親は、彼女がいつもおいらの話を楽しそうにしていたこと、
おいらのことが大好きだったけど、
おいらの子供たちを自分のように悲しませることになるといけないと思い黙っていたこと、
彼女が意識を失う直前に、おいらに会いたいと言っていたことを話してくれた。
机のすみにおいらと写ったプリクラが貼ってあった。
声を出して泣いたのは、大人になってから初めてだった。
帰るとき、彼女が亡くなったとき身につけていたネックレスと、
いつも持ち歩いていたお守りを形見にもらった。
そばにおいてやって下さい。と言われた。
ネックレスは母親が就職記念にあげたものだった。

ただ、お守りのほうはどう手に入れたか分からないということで受け取るのはちょっと気が引けた。
でも、彼女がとても大切そうににしていたのを知っていたので、受け取ることにした。
お守りの中を開けてみようとも思ったが、やめた。

それからすぐ転職をした。
一年後、ようやく少し落ち着いた。
形見のお守りは、いつも彼女がしていたようにかばんにつけて持ち歩いていた。
先日、職場の女の子が、
「これ前から気になってたんですけど、何が入ってるんですか?」
といい、かばんのお守りを開けてしまった。

とめる間もなかった。
というより、そういったときはもう中身を取り出していた。
彼女は、突然、
なにこれー?といって大笑いを始めた。
お守りの中には、チョコエッグのカメが入っていた。

おいらは、もう、職場にいることも忘れ、ただただ泣き続けた。

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